日々雑景
本や漫画や映画の感想に購入本のメモと雑記など

仏果を得ず (三浦しをん)

4575235946仏果を得ず
三浦しをん
双葉社 2007-11







文楽(人形浄瑠璃)を生業とする主人公の健(たける)を中心にして、訳ありな様子の兄弟子兎一郎(といちろう)や、師匠の銀大夫や周囲の人々をめぐる伝統藝能人間ドラマってところでしょうか。


文楽というのは、語りを担当する大夫(たゆう)、音楽を担当する三味線、人形操りを扱う人形遣いの三業で行われるのだそうですが、主人公の健はこの三業の中での大夫です。
師匠の命によって、かなり変わり者な兄弟子兎一郎(彼は三味線)と組まされることになった健の奮闘から物語が始まりまして、それぞれの悩みや事情などが文楽の作品と関わりづけられて語られていきます。
連作短篇なのでとても読みやすく、本文中で使われている作品にも興味が湧いてくる構成が良いですね。文楽ってどんなもの?などと思いながら読み進めていた自分にもかなり楽しめました。
『本朝廿四孝』の「奥庭狐火の段」の八重垣姫のくだりは一度観てみたくなりましたし。
ただ、全体的にさらりとした語り口な分、伝統藝能というものの中にある業の深さやドロドロ感もちょっと薄めかなとも思います。でも、この作品にはその位の距離感があっているのでバランスとしてはちょうどいいのでしょうね。
芸のことだけではなく、色々と迷いの多かった健が様々な経験を経て成長していく姿を描いた物語としては後味も爽やかでとても面白かったです。
伝統藝能好きな方にもお薦めできるかと。





ちんぷんかん (畠中恵)

4104507075ちんぷんかん
畠中 恵
新潮社 2007-06




読む順番が逆になってしまいましたが、若だんなのシリーズ第6弾。
収録作は以下の通り。




「鬼と子鬼」
通り町一体を襲った火事が原因で、とうとう三途の川の傍まで来てしまった若だんな。
袖の中に紛れ込んでいた家鳴やお獅子だけでも現世へ帰そうと、道連れになった少年冬吉と共に賽の河原で奮闘するのですが……。
若だんなとちゃきちゃきした冬吉のやりとりが微笑ましくて大好き(笑)。
若だんなのあまりの天然ぶりに自分がしっかりしないと!と決意する冬吉は本当に良い子ですね。
その一方で、末松の気持ちが不憫でなりませんでした。彼がきちんと向かうべき場所へ行けると良いなと思います。きっと大丈夫だと思いますが。


「ちんぷんかん」
上野の広徳寺で妖退治を請け負う僧、寛朝の唯一の弟子である秋英が、師匠の命で和算の教本をめぐる厄介ごとに巻き込まれることになり……。
秋英くんと妖の和算合戦の小気味よさと寛朝の大物振りが楽しい一篇でした。
「臨機応変、変幻自在、縦横無尽、馬耳東風。いやいや、人に与える助言は、それぞれ違うものだ」(P105)って台詞が寛朝のおおらかさをよく表していますね。
そんな師匠の包容力の下で、秋英くんがどんどん成長していけばいいな。
んで、そのうち師匠につけつけと物を云えるようになると良いと思うよ!(笑)


「男ぶり」
若だんなの両親の馴れ初め話。
途中の展開にちょっと不安になったものの、かなり甘めな話かも。
つか、何よこのラヴラヴ振りとおのろけは!
読んでいてちょっと悶絶しました(笑)。


「今昔」
若だんなの異母兄松之助の縁談話が、陰陽師や式神と奇妙な関わりを持つことになってこじれてしまいます。縁談の行方はどうなってしまうのか、玉乃屋の姉妹との関係はどう決着がつくのか。そんな中、若だんなにも式神が襲いかかり……とハラハラし通しな一篇。
飄々としていた貧乏神の金次が最後に見せた表情に神としての迫力を感じました。
貧乏神でもやっぱり神は神なんですよね。


「はるがいくよ」
縁談が決まって長崎屋を出て行くことになった松之助。良いことだとはわかっていても、それで寂しさが減るはずもなく、若だんなは元気がありません。
そんな時に桜の花びらの妖の赤子に出会い、その成長を見守ることになりますが……。
これは本当に切ない話でした。
いつまでも一緒にいたいと思っているのに、置いていかれることがわかっていて、それでもなお心を配らずにはいられない、そんな見送るものの立場の痛切な哀しみが伝わってきて、読後しばらくぼんやりしてしまいました。
ラストの余韻を含めて忘れられない佳品です。


正直、こちらの本を先に読んでいたら、もうそろそろシリーズ終盤なのかと考えてしまいそうですが、7冊目を読んだ限りではそうでもなさそうなので良かったなぁ。
やっぱり若だんなたちとはまだ別れたくないです。



いっちばん (畠中恵)

4104507091いっちばん
畠中 恵
新潮社 2008-07






若だんなのシリーズ第7弾。
収録作は以下の通り。


「いっちばん」
松之助兄さんや栄吉が傍からいなくなってしまってしょんぼりしている若だんな。
妖たちが一生懸命慰めようとして、若だんなへの贈り物を探そう!と頑張るところに通町界隈を騒がせる掏摸事件が絡んで大騒ぎに。
妖たちが若だんなを思う気持ちに読んでいるこちらの気持ちも温かくなりました。


「いっぷく」
廻船問屋長崎屋の前に、商売相手の唐物屋の小野屋と西岡屋が現れて、その開店披露の会で品比べが行われることになりますが、小野屋の跡取り息子七之助の行動には何故か不審な点が多くて思惑がわかりません。
長崎屋は新しく入ってきた店に得意先を奪われてしまうのか。そして品比べの結果の行方は?
思わぬ人物との再会にびっくりでした。前巻のエピソードはこう使われるのか!


「天狗の使い魔」
狐と天狗と狛犬のややこしい争いに巻き込まれてしまった若だんな。
天狗が抱いていた寂しさがゆっくりと埋まると良いなと願ってしまいます。
友との新しい関係も早く固まって欲しいです。


「餡子は甘いか」
三春屋を出て外へ菓子修行に出かけた栄吉は、自分よりも才能のある新米の七助がどんどん才能を伸ばしていくのを見て自信喪失してしまいます。
悔しくて情けなくて職人への道を諦めてしまいそうになる栄吉の姿が痛ましくて読んでいて切なくなりました。それでもこの出来事でまたひとつ成長した栄吉の姿はとても頼もしいですね。


「ひなのちよがみ」
厚塗り化粧のお雛ちゃんが薄化粧になったことから起きる騒動。
恋と商売が絡んだ問題を若だんなはどうやって解決するのか?
自分を信じて欲しいお雛ちゃんの云い分ももっともなんですが、許嫁の正三郎さんが不安になっちゃう気持ちもわかるよなぁ……と大変な出来事なのにちょっとにやにやしてしまいました(こら)。


今回の若だんなは周囲の人々の問題解決に尽力していましたね。
前巻色々大変だったので、こういう展開だとちょっと安心です。
やっぱり若だんなの存在が「いっちばん」なんだよなぁと思いました(笑)。


アンゲルゼ ひびわれた世界と少年の恋 (須賀しのぶ)

アンゲルゼ ひびわれた世界と少年の恋 画像クリックでamazonへアンゲルゼ ひびわれた世界と少年の恋 (コバルト文庫 す 5-67)
須賀 しのぶ
集英社 2008-09-02





「いつか、自分の中で諸々なことが崩れ去ったときに、最後に残るのは、誰かを想う気持ちだ。だから君は、その想いをなにより大切にするといい。それと」
 敷島は、部屋の中央で立ちつくす覚野を顧みた。
「どんなに願っても、今の君には何もできない。それが、よくわかっただろう?」
 覚野は頷いた。悔しかった。今の自分には、陽菜をあんな風に困らせて、泣かせることしかできないのだ。
 もう何もかもが遅い。同時に、まだ何もかもが早すぎる。
「その悔しさも、よく覚えておくといい。無力を憎め。それは君の、一番の原動力となる」

(同書 P274〜275より引用)




来るべき実戦へ向けての苛酷な訓練の中、陽菜の体にはある変化が起き始める。
陽菜と軍部の関わりに疑念を抱く覚野は、文化祭でアンゲルゼについての研究発表をするべく西原と楓と共に研究会を発足するが、情報不足という壁に突き当たってしまう。
そんな折、敷島は覚野にアンゲルゼ関連資料の提供を申し出るのだが……。





思春期ミリタリー青春サバイバル成長小説第三弾(もはや何を説明したいのかわからん)。
ようやく最新刊まで追いつきましたよ。
今後の展開に深く関わってくる重要な謎がいくつも明かされておりますけれど、肝心なことはやっぱりよくわからないんですよねぇ……。
今回は敷島少佐の過去や秘密やらが色々判明してびっくりしました。
でも一番びっくりしたのは最後の台詞だけどさ。
文字通りの意味に受け取っちゃって良いのー?
少佐の真意がめっちゃくちゃ気になるんですけどもう。もうもう!(うるさい)
それはそれとして、敷島さんにはなるべく長生きして戴きたいんですけどどうなるんだろうか。
あと、「国内の成功例は一人だけ」って徳武さんの台詞がすっごくひっかかってます。うう。


陽菜のパートはまたしても苛酷ですね。
前巻で「産卵」の話が出てきたのでもしかしたらと思ってましたら、やっぱり出てきたかその話題。
それに加えて、心身が不安定になったまま初の実戦に赴かなくてはならないし、そこでトラウマ必至の体験はするし、さらには途方も無い孤独を受け入れなくてはならない立場にあることも宣告されますし。
並の人間だったら精神的に壊れてもおかしくないような状況でよくもまぁここまで頑張れるものだと。やっぱりどんどん成長していってるんだなぁ。


あ、忘れてならないのは勿論もーちゃんですよもーちゃん。
今回の蔭の主役はやっぱりもーちゃんだよね!(鼻息)
泣いてばっかりだった幼なじみがどんどん変わっていっってしまったことをきっかけにして、自分を取り巻く世界の謎を真摯に追い求めていこうとする姿勢も大変好ましいのですが、焦ったり苛立ったり自分の気持ちを責任感にすりかえたりする往生際の悪さがもうたまりません。ビバ青春(興奮)。
ところで、もーちゃんとの怒涛のやりとり(?)があった後、陽菜っちは何て云って少佐と東さんを呼んできたのか気になります。いや、彼の姿を見れば一目瞭然なんだろうけどさぁ(笑)。



続きは冬になるそうです。早く続きが読みたい!

アンゲルゼ 最後の夏 (須賀しのぶ)

アンゲルゼ 最後の夏 画像クリックでamazonへアンゲルゼ 最後の夏 (コバルト文庫 す 5-66)
須賀 しのぶ
集英社 2008-06-03




 歌いながら陽菜は、孵化のことを思い続けた。考えるというよりも、ただ卵にひびが入り、そこからさまざまなものが溢れ出る光景が次から次へと浮かんで、思念が引きずられていく。
 割れる。生まれる。ヒトが。血が。世界そのものが。洪水のように溢れ出す。空白だった世界に満ちる。いっぱいになった卵がまたひび割れて、外殻が剥がれおち、内側で完璧だった空間は外に溢れ出す。それが延々と繰り返される。
 孵化。幾重にもなった殻がすべて壊れた先にあるのは、なんなのだろう。無か。それとも全てか。

(同書 P177より引用)




人類と敵対する存在「アンゲルゼ」との戦いに心ならずも飛び込むことになった女子中学生が苛酷な世界で苦闘するシリーズ2冊目。
思春期特有(だけでもないかもしれませんが)の「人とは違う特別な存在でありたい」と思うドリームを壊滅的に粉砕(だから日本語が変です)してくれる作品ですよねぇ……。
そして思春期特有の感情の描写も黒くて素晴らしいです(絶賛)。


まだまだ甘えていたり迷っていたりしていてもおかしくない年頃なのに、そういった感情が許されないどころか、甘えが許されず逃げ場が殆ど無いような状況に追い込まれた主人公の陽菜の生活は精神的にも肉体的にも相変わらずハードです。
対アンゲルゼ特殊戦術部隊(AAST)と深く関わることになった為、軍事教練よりも大変な訓練に参加することになるは、能力を最大限に引き出すための訓練がこれまた猛烈にきっついはで。
湊とのやりとりやマリアとの関係があるのでちょっとは心和みますけども、近々陽菜が実戦に出ざるを得ないであろうことも示され、今回登場した有紗の存在が未孵化(アンハッチ)の置かれている状況の危うさをも突きつけてきますし、今後も生きるか死ぬかのよりいっそうしんどい展開になりそうです……。
そんな中でも清々しく甘酸っぱい青春モードと云うものは炸裂するのですね!
いや、前巻で陽菜っちが「もう恋なんてしない」とか決意していたものですから、ええーラヴ方面当分はおあずけ?とか微妙にがっかりしていましたら、かなりキラッキラな夏の思い出が満載でした。
野球の試合とか海とか花火とか。サブタイトルのお蔭で切ないまでの輝きがありましたよ。この巻、シリーズ後半あたりに読み返したら物凄くしみじみしてしまいそうな気が。
渦中にあると全くそれどころじゃございませんけど、遠巻きに見ていると青春って良いわぁ、キラキラしてて!と無責任に楽しめてしまいます。そういった面では敷島少佐に共感しまくりですよ自分。でも東さんのツッコミももっともだけど(笑)。
どうでもいいですが、一中対二中の試合の場面は著者の野球に対する愛情が迸っていると思います(笑)。


生と死と大人たちの思惑と若者たちの思いとが交錯する中、「大活動期」が目前となったアンゲルゼとの戦いには果たして希望はあるのか。
あと青春模様の行く先はどうなっちゃうのか。
今回は湊がいくぶん株をあげたっぽいので、次回はもーちゃんに激しく頑張って欲しいです☆
いや絶対もーちゃんは陽菜のこと好きだろ。自分で気が付いてないっつーか押し込めてるだけで。
根っこの部分では子どもの頃と同じくらいかそれ以上に陽菜を大事に思ってる気がするんだけどな〜とお墓のエピソードあたり(と「……べつに太ってねーだろ」のところ)を読んでいて思いました。違ってたらごめん。


でも強いし綺麗だし可愛いし優しいし陽菜命だし最終的にはマリアでもいいと思(以下略)。


アンゲルゼ 孵らぬ者たちの箱庭 (須賀しのぶ)

アンゲルゼ 孵らぬ者たちの箱庭 画像クリックでamazonへアンゲルゼ 孵らぬ者たちの箱庭 (コバルト文庫 す 5-64)
須賀 しのぶ
集英社 2008-03-01





東京から千キロ以上北東に浮かぶ神流(かんな)島。
そこで暮らす中学二年の天海陽菜は、学校生活や友人関係に常に不安を抱き、厳しい軍事教練には馴染めない日々を送っていた。
そんな彼女の心の拠り所は林の奥の沼で陽菜を待っていてくれる「マリア」の存在だった。
「マリア」と会うことで心地よい安らぎを得ていた陽菜だったが、見知らぬ少年が秘密の場所に現れたことによって、彼女の生活は大きく変わっていくことになる……。








須賀しのぶさんの新シリーズは、ダーク感情系ミリタリー成分配合中学初恋ラヴ日記ってな感じの作品でした(←何それ)。


舞台となるのは昭和の次に「継和(けいわ)」という元号となる日本。
突然発生する死に至る奇病「天使病」を経て、人間とは別の存在に変化(進化?)したアンゲルゼと人間の間に起きた戦争によって、双方共に大きな損害を受けたという歴史が背景にあるので、有事に備えて中学校でも軍事教練が行われています。
歴史改変ものっぽい雰囲気でもあるな。
だもんで、主人公が中学生なのに軍服度数が高い。流石須賀さんの作品だけあります。ブラヴォー(拍手)。
普通であろうとすることに執拗なまでにこだわる陽菜には実は隠された秘密があり、やがて彼女は心ならずも大きな事件に巻き込まれ、自身の根本を変えざるを得なくなる選択を迫られます。
何と云いますか、もう切なくなるくらい情容赦の無い展開(日本語が変)に何度「うっへえ……」と呟いたことか。
「流血女神伝」も大概ハードでしたが、あれはカリエの明るさに読者もだいぶ救われていたんだなぁとしみじみしました。
今回の主人公の陽菜っちは結構後ろ向きなんで、読んでいるこっちも鬱々とした気分になりがちなんだ……。
そもそもの展開がこうなのに、マイナス感情がぐろぐろと渦を巻いている陽菜の中学生活が読んでいてしんどかったです。
自分がこのくらいの頃って、それなりに色々な悩みを抱えていたようなそうでもないような(どっちだよ)気がしますけども、友人たちやクラスメイトと足並みを揃えることにここまで腐心しなくてはならないのって疲れるだろうなぁ。まだ若いのに。中学生も色々大変なんですねぇ。



物語としてはまだまだ序盤なので、まだまだ謎の多いアンゲルゼという存在や世界を取り巻く情勢など、気になることがてんこもりです。
あと、陽菜たちが住む神流島には名前からして何か凄い曰くがありそうな気がしているんだけどどうなのかな。一中の校歌も意味ありげだったし。
幼馴染ラヴに結構弱いワタクシは今の所もーちゃん(覚野)を応援しておりますけど、ラヴ方面の展開もどうなっちゃうのかな。
まさか敷島さんとくっつくってなことは無いよね?(汗)


そんな戯言はともかく、3巻まで溜めているので(おい)、さくっと続きを読もうと思ってまっす。楽しみ。


風の王国 嵐の夜 (毛利志生子)

風の王国 嵐の夜 上 風の王国 嵐の夜 下


『風の王国 嵐の夜』 上
毛利志生子 著 集英社コバルト文庫 刊





ネタバレ無しであらすじを書けそうもないので今回は割愛致します。



信じられない報せがもたらされた後、巧妙に仕掛けられた火種があちらこちらで火を噴き始めて爆発するまでが上巻で、大爆発を経てその沈静に当たるのが下巻ってところでしょうか。
上巻、下巻共にほぼ一気読みしてしまったほどの急転直下な展開に引き込まれました。
今までの積み重ねがあってこそだとは思いますが、歴史ロマンスの印象が強かった既刊からここ4冊の流れによって本格的な歴史ものへと変化していったと云いますか、ヒロインとヒーローの関係を中心としたロマンスから大きなうねりを持った歴史群像劇の面白さになったのかな。
ロマンス部分を期待するターゲット層にはどうなのかな〜?と感じつつも、個人的には大満足です。本当に面白かった!
悲しみの只中に突き落とされながらも愛する者が残したものを懸命に守ろうとする翠蘭の姿が健気過ぎて見ていていたたまれないのに、要を失ったツァシューで起きる出来事の数々と云ったら「もう勘弁してくれ!」の連続で。
読者としても悲しみに沈んでいる間もなく(去っていった人々への愛惜の念は勿論ありますけれど)、歴史の流れの奔流に飲み込まれてしまいました。
様々に張りめぐらされた伏線がどんどん回収されていくのも見事でした。虚実の錯綜する中で信頼できるのは誰なのかと云うサスペンス部分にもハラハラし通しでしたし、あの人がこうなるのか!あのエピソードはこう使うのか!などといちいち感心しながら読み進めていくのが快感でしたよ。


しかし、翠蘭という人物は悲嘆の中にあっても悲しみに曇らされない公正なまなざしを持っているのだなと感心しました。
いったん疑念を抱いてしまえば、状況証拠だけでもマイナスの感情に踊らされてしまって目を曇らされいがちなのが人の弱さだと思いますけれど、彼女に関してはそういうことがないのですよね。
ロナアルワのことも公正すぎるくらい公正に対処していますし、もともとの資質に加えて嫁いだことによって人の上に立つ者としての強さと優しさを兼ね備えた成長を遂げたのですね。
有能ではあるものの理で突き詰めて事に当たるガルとの対比も興味深いです。
まぁ、国を動かしていく際にはどちらも必要なものではありますが。
副宰相のディ・セルはなんかちょこちょこといい役どころかも?と感じていたら、奥方と共に今回一気に名バイプレーヤー度数をアップさせてくれました。真珠のエピソードには泣かされましたよううう……。
あと、エンサも恰好良かったなぁ。
「ご心配には及びません。この騒ぎが収まるまで、針を手にすることはありませんから」(P75)
の辺りの翠蘭とのやりとりが大好き!
ジスンも上巻で見せた弱さから脱却しましたし、これからもラセルの傍で頑張ってくれると良いな。



今回の出来事で、次からの物語の舞台は東のツァシューから西のヤルルンへと移るようですね。
翠蘭とソンツェン・ガムポの関係はどうなるのか、宰相としてのガルの行く末、鮮やかで強い印象を残した緑の瞳の男など、気になることが盛りだくさんなので続きを早く読みたいです。




風の王国 金の鈴 (毛利志生子)

風の王国 金の鈴『風の王国 金の鈴 』

毛利志生子 著
集英社コバルト文庫 刊







侍女の心無い言葉に傷つき、自分の出自に疑いを抱いたラセルは城を抜け出した。
ラセルの家出の理由を知ったリジムは、息子に亡き妻ティカルとの関係を率直に語り……。




溜め込んでいた既刊を読もう第三弾。


今回のサブタイトルは字面が美しいのと幸福の象徴って感じでとても好きです。
でも最後に「うああお願いだから嘘だって云ってえぇぇ!」って叫んだけどさ(涙)。
はらはらさせてほのぼのさせて最後に突き落とす容赦の無さが凄過ぎますよ……。




翠蘭の存在のお蔭で良好になってきたリジムとラセルの父子ですが、根っこに残っていた影の部分が今回の家出騒動を引き起こしてしまったのですね。
不安定な立場が不安な気持ちを呼び起こしてしまったので、これはラセルばかりを責められないよなぁ。でも、リジムの誠意がラセルにもきちんと伝わったので父子の信頼関係は固まったと考えていいんだよね。そしてこの先、ラセルが両親の愛情を疑うようなことはなくなるんだろうな。良かったねラセル!
この家出事件ではガルの息子ツェンニャはかなりの被害者であるとは思いますが、けっこう頭が回る割にはいまいち詰めが甘かったので墓穴に陥っちゃった感もありますな。策士策に溺れるって感じ?
まぁ、まだまだお子様だから仕方ないんだけど(笑)。
「私には、革袋に入る予定などなかったのです!!」(P14)には、そりゃ入る予定はないだろうねぇ〜と笑わされました。本人は大真面目なんだけど。でも可愛くておっかしかった〜!
ラセルやツェンニャが大人になってから、この家出事件を懐かしさと苦笑と共に語り合える日が来ると良いなぁ。
リジムとのささやかな諍いを経ての翠蘭の無事の出産、揚水車の建設など、吐蕃の内部はより良い方向へ変化するように思え、未来への希望がかきたてられるのですが、ケレスから持ち込まれた吐谷渾出兵が明るさに翳りを与えます。
そして、様々な騒動はあったものの翠蘭たちの微笑ましい幸福を見守ってきた読者は最後の最後で衝撃的な報せを突きつけられます。
信じられないと云うか信じたくないような出来事の真偽は一体?という所で以下次巻。


続く2冊は怒涛で激動な展開になる模様で、今から戦々兢々としていますよ……。




風の王国 初冬の宴 (毛利志生子)

風の王国初冬の宴 画像クリックでamazonへ『風の王国 初冬の宴 』

毛利志生子 著
集英社コバルト文庫 刊






翠蘭の懐妊に朱瓔とサンボータの婚約と喜びに湧く王都ツァシューには、吐谷渾の王族ケレスをはじめ様々な人々が訪れ、聖寿大祭を控えた賑わいと華やぎをみせていた。
そんな中、招待もなく城に現れたニャン家の当主ツルティムが翠蘭に暴言を吐くという事件が起き、一騒動が持ち上がるのだが……。




溜め込んでいた既刊をまとめ読みしよう第2弾。



親吐蕃派と親唐派に分裂する吐谷渾内部の思惑と深い関わりを持つケレスは前巻で出てきたエフランの弟だったんですね。と云うことはガルの義弟でもある訳なんですが、なんとなくふたりの間に漂う雰囲気が微妙なので色々気にかかります〜。後々このふたりには何かしらの衝突(敵対というんではなくて)がありそうな気がしてますがどうなのかな。


翠蘭が新しく迎えた侍女ツルティムの娘ロナアルワに関しても色々気になることばかりです。
彼女とラセルの関係は今のところ良好な模様ですが、周囲の様々な思惑が彼女をどのような立場に追い込んでいくのか、あるいは彼女自身が望んでその渦中に飛び込んでいくのか。
いったいどうなってしまうのかな。


ラセルはいよいよ王太子という立場と正面から向き合うことになりますね。
精神的な試練を乗り越えられるかどうかがこの先の展開の鍵になるのかも?
決して強靭ではないけれど、聡いラセルのことだからきっと乗り越えてくれると信じてますよ。
うおお、頑張れラセル!!(握りこぶし)
最後の最後でケレスが気になる言動を見せてますが、彼は一体何をするつもりなのか気になるところで次巻へ続きます〜。


翠蘭の出産は次巻になるのですね。
健やかなお子が生まれますように。



どうでも良いんですが、そろそろ登場人物紹介ページでのジスンは男姿にしてあげたほうが良いのではないかと思う今日この頃です(本当にどうでもいい)。



風の王国 波斯の姫君 (毛利志生子・増田メグミ)

4086010089『風の王国 波斯の姫君』

毛利志生子・増田メグミ 著
集英社コバルト文庫 刊




最新刊が出たので溜め込んでいた既刊をまとめ読みしてみようその1。
短篇小説が2篇と漫画が収録されています。


表題作の「波斯の姫君」は、サマルカンドへ向かう途中に慧が出会ったペルシアの姫スィーンドフトにまつわる秘密についてのお話。
旅の途中で出会う人々の様々な表情や人生模様が垣間見られるので慧の話は大好きです。
べたつきのないさらりとした描き方も良いですね。
しかし、慧ってば色々な女性たちと出会っている割にはロマンス方面に行きませんよね(笑)。
そういう距離感が個人的には心地良いのですが、ターゲット層のお嬢さん方には物足りないんじゃないかしら〜。


「しるしの石」はヤルルンの城で起きた盗難事件の数々を宰相ガルが解決する話。
ガルの奥方のエフランが出てきますよー。
三児の母なのにそうは見えない美女な上、性格はとても素直(天然?)で、夫を熱愛しています。ガルの方もなんだかんだ色々考えつつもエフランを愛してるんでしょうね。ラストの辺りなんてもうラヴラヴじゃん(笑)。妻の甘えと夫の媚の絶妙なバランスの夫婦関係に乾杯!
作中で名前の出てきたガルの末妹ミンシアはこの先本篇に出てきてくれないかな。
翠蘭と気が合いそうな気がするんですけど。


巻末の漫画はジスンの過去話。
伯父のケーセクに仕える占者シェリンに自身の秘密を知られたジスンは、彼女の願いを手伝う羽目になり……というのが大筋。
悲しい過去を経て、ジスンは守りたいものを守れるように努力し続けてきたのだなぁと思いました。
読後に切ない想いが残る作品。



この先の本篇が怒涛の展開をみせるようなので、嵐の前の静けさと云うか安心して読めるのはこの本だけっぽいですね(汗)。
それでは怒涛の流れに身を任せてこようと思います〜。




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