『風の王国 嵐の夜』 上 ・
下毛利志生子 著 集英社コバルト文庫 刊
ネタバレ無しであらすじを書けそうもないので今回は割愛致します。
信じられない報せがもたらされた後、巧妙に仕掛けられた火種があちらこちらで火を噴き始めて爆発するまでが上巻で、大爆発を経てその沈静に当たるのが下巻ってところでしょうか。
上巻、下巻共にほぼ一気読みしてしまったほどの急転直下な展開に引き込まれました。
今までの積み重ねがあってこそだとは思いますが、歴史ロマンスの印象が強かった既刊からここ4冊の流れによって本格的な歴史ものへと変化していったと云いますか、ヒロインとヒーローの関係を中心としたロマンスから大きなうねりを持った歴史群像劇の面白さになったのかな。
ロマンス部分を期待するターゲット層にはどうなのかな〜?と感じつつも、個人的には大満足です。本当に面白かった!
悲しみの只中に突き落とされながらも愛する者が残したものを懸命に守ろうとする翠蘭の姿が健気過ぎて見ていていたたまれないのに、要を失ったツァシューで起きる出来事の数々と云ったら「もう勘弁してくれ!」の連続で。
読者としても悲しみに沈んでいる間もなく(去っていった人々への愛惜の念は勿論ありますけれど)、歴史の流れの奔流に飲み込まれてしまいました。
様々に張りめぐらされた伏線がどんどん回収されていくのも見事でした。虚実の錯綜する中で信頼できるのは誰なのかと云うサスペンス部分にもハラハラし通しでしたし、あの人がこうなるのか!あのエピソードはこう使うのか!などといちいち感心しながら読み進めていくのが快感でしたよ。
しかし、翠蘭という人物は悲嘆の中にあっても悲しみに曇らされない公正なまなざしを持っているのだなと感心しました。
いったん疑念を抱いてしまえば、状況証拠だけでもマイナスの感情に踊らされてしまって目を曇らされいがちなのが人の弱さだと思いますけれど、彼女に関してはそういうことがないのですよね。
ロナアルワのことも公正すぎるくらい公正に対処していますし、もともとの資質に加えて嫁いだことによって人の上に立つ者としての強さと優しさを兼ね備えた成長を遂げたのですね。
有能ではあるものの理で突き詰めて事に当たるガルとの対比も興味深いです。
まぁ、国を動かしていく際にはどちらも必要なものではありますが。
副宰相のディ・セルはなんかちょこちょこといい役どころかも?と感じていたら、奥方と共に今回一気に名バイプレーヤー度数をアップさせてくれました。真珠のエピソードには泣かされましたよううう……。
あと、エンサも恰好良かったなぁ。
「ご心配には及びません。この騒ぎが収まるまで、針を手にすることはありませんから」(P75)
の辺りの翠蘭とのやりとりが大好き!
ジスンも上巻で見せた弱さから脱却しましたし、これからもラセルの傍で頑張ってくれると良いな。
今回の出来事で、次からの物語の舞台は東のツァシューから西のヤルルンへと移るようですね。
翠蘭とソンツェン・ガムポの関係はどうなるのか、宰相としてのガルの行く末、鮮やかで強い印象を残した緑の瞳の男など、気になることが盛りだくさんなので続きを早く読みたいです。